和傘絵付け職人「もいち」参上…1
世界にたったひとつのアート和傘
岐阜の加納地区は和傘の生産地である。
江戸時代に始まった加納での和傘作りは加納藩の奨励の元に発展し、明治以降、日本一の和傘生産として全国に名を知られた。戦後は、日本人の生活様式が欧米化した事と洋傘の急激な普及、和傘の需要は減っていった。現在では年間数万本程度、生産に携わる職人も減少している。さまざまな日本の文化が失われていく中で、世界に誇れる伝統工芸としての和傘の全ての種類を生産可能なのは、今では岐阜市だけである。
伝統を受け継ぎ作られる和傘、十数人の熟練職人の手を経て完成する貴重な岐阜和傘に、手描きで絵付けをする事は世界に1本だけのアート和傘。絵付けを通して和傘作りの伝統文化を守り、技術の伝承に微力ながら応援・協力できればと思っている。
「岐阜グラフィック和傘展」出品作品
多幸
「菊の渦」美濃本蛇の目 四八極細 切抜き模様
和傘絵付け職人「もいち」参上…2
和傘の伝統文化を絶やしたらあかん
和傘の出合いは12年前。「蛇の目傘」を見て驚いた。
紫地に白い藤の花、伝統的な柄のその傘は藤切り抜き模様、
藤の花びらを一枚一枚切り抜いて、裏から別の和紙を貼る。
ステンドグラスを和傘に描くイメージ。手間のかかる作業が洗練された美を作り出す。そして藤の渦巻く流れの美しさのみならず、傘を閉じれば、切り出した細い竹の姿に戻る岐阜和傘の繊細さ、複雑さに改めて職人技の凄さを見た。2001年6月JR岐阜駅アクティブGにて「岐阜グラフィック和傘展」が開催された。
私が出品した作品は黒の「蛇の目傘」に円を一つひとつ切り抜いて、
裏から別和紙を張り込む 切抜き模様。396個の円を切り抜き、色のグラデーションを配した。無い色は作る、鮮やかな山吹色は和紙を染めて作り、貼り込む。和傘職人へ敬意をはらい制作したアート和傘。制作中に職人気質を知り、感銘をうけた。日本を代表する竹と和紙の工芸品、岐阜和傘の伝統文化を絶やしたらあかんと心から思う。
和傘絵付け職人「もいち」参上…3
二足のわらじ
今年還暦を迎えたが気持ちは25才と常々言っている。定年退職する友がいる中、気持ち25才の私は新しい事への挑戦を忘れません。
本業はデザイナーですがアートデレクターであり、イラストレーターでもあります。そして岐阜の伝統和傘を絶やさないよう和傘絵付け職人と銘打ち、世界に一つのアート和傘を製作し伝統保持に協力しています。アート和傘の注文依頼には、制作に2ヶ月ほどかかります。デザインはパソコン上で構築し何度も検討しながら煮詰めて行きます。デザインが決定したら実寸で下絵を起こし、絵付け作業にかかります。手描き、切抜きどちらもOK。一本一本が大切な傘ですから失敗は許されません。
和傘絵付け職人「もいち」参上…4
生きとし生けるものへの讃歌
森羅万象を共に生きる“いきもの”の魂を書き留めて於くこと。和傘絵付け職人「もいち」の創作活動の原点です。幼い頃、研究室と称した小さな木箱の中で捕まえた昆虫を画いていたのが7才の頃、そこがどうも自分の創作活動の始まりらしいのです。
今まで個展や作品展など多々開催してきました。5年前アクティブGにて開催したエリア15「アート和傘・JAPAN展」では会場のエントランスホールに、JAPANをイメージする深紅の丸に蝶をあしらった傘をメイン看板とし展示しました。和傘を岐阜から世界へ発信したいとの思いでした。展覧会は大成功。2000人程の入場者数でした。多くの方に観てもらえた展覧会が「和傘絵付け職人もいち」の心の支えと成っているのは間違いない。
アート和傘・JAPAN展 会場メイン和傘
和傘絵付け職人「もいち」参上…5
雨傘に塗る油の秘密
パラパラパラという雨音を聞いたことがありますか。 和傘ならではの雨の音、風流なその音の源は和紙に塗られる油。
荏油(えのあぶら)、亜麻仁油、桐油の植物油に、少量の鉱物油を混ぜたものを塗るという。
雨具として使う場合は良いのですが、年月が経つと油が染みて飴色に変色してきます。その変化を予測し、絵付けした和傘。
白い傘に女郎蜘蛛を描き白い巣糸を描く。絵付け後、油を塗って5年の歳月が過ぎたこの傘は、飴色に白い蜘蛛の巣が掛かって、蜘蛛の動きを見事に再現した、世界に一本だけの絵付け和傘となった。
5年後
創作手描き絵付け和傘「蜘蛛」
和傘絵付け職人「もいち」参上…6
巳年に思う
2013年の幕が開き今年は前にも増して着実な歩み、足跡を残せるよう頑張るぞ。 新年にちなみ、新作 男傘 「昇り鯉」を創る。力強い生命力、存在感を表現。 端午の節句に飾り、子供の成長を祝う粋な和傘、子供の名入れも出来る。 リビングに飾る鯉のぼりだ。 もいちの発信するジャパニーズモダンはまだまだ続く。 詳しくはネットで検索!
年の始めに思う事、 今年は新作を揃えて展示会を開催する。 もいちの絵付け和傘から新しい魅力を発信する事が和傘の普及、振興に繋がればとても嬉しい。 ※展示会場募集中!
創作手描き絵付け和傘「昇り鯉」
和傘絵付け職人「もいち」参上…7
半年間の掲載に感謝
去年9月より掲載されている「もいち」参上は今回をもって半年間の掲載を終了する。最終回に向けて新作「鯰」を制作。目前の危機に気付かない小魚、喰われるか、それとも「二兎を追うもの一兎を得ず」なのか、何事も後を振返る余裕が危機を回避する事は確かだ。
さて半年間、「もいち」の創作絵付け和傘からジャパニーズモダン男傘を発信して来た。世界に一本だけのアート和傘。絵付けを通して和傘の新しい魅力や伝統文化をより多く伝える事が出来るよう制作を続ける所存だ。掲載に感謝。 ※和傘展開催予定/展示会場募集中!
創作手描き絵付け和傘「鯰」